遅刻や欠勤を繰り返す、仕事上のミスが増える、上司の指示に従わない、周囲とのトラブルが続く――。このような社員を、社内で「問題社員」と呼んでいないでしょうか。
勤務上の問題を放置すれば、上司や同僚の負担が増え、職場の不公平感にもつながります。一方で、背景にメンタル不調、睡眠障害、身体疾患、服薬の影響などがある場合、単なる勤務態度の問題として扱うと、必要な支援が遅れる可能性があります。
重要なのは、「病気だから仕方がない」「本人の性格の問題だ」と早い段階で決めつけず、医学的問題と労務問題を分けて考えることです。
「問題社員」という言葉が判断を難しくする
「問題社員」は、医学用語でも法律用語でもありません。遅刻、欠勤、業務命令への不服従、対人トラブルなど、性質の異なる問題を一つの言葉でまとめた表現です。
一度このレッテルが付くと、本人の行動がすべて「性格」や「意欲」の問題に見えやすくなります。反対に、診断書が提出されると、今度はすべてを病気の影響と考え、必要な事実確認や注意まで避けてしまうことがあります。
まず必要なのは、「いつ、どのような行動があり、仕事や周囲にどのような影響が出たのか」という客観的な事実の整理です。
医学的な問題を疑う手がかりは「以前との変化」
人事労務担当者は医療の専門家ではないため、社員の言動から病名を判断する必要はありません。
医学的な問題を疑う際の重要な手がかりは、入社後の仕事ぶりや周囲への接し方と比べて、現在の状態が大きく変わっているかどうかです。
入社時から同じような問題があったか
本人の性格や行動傾向が関係している場合、入社当初から似た問題がみられることがあります。
たとえば、以前から遅刻や連絡漏れが多い、注意されると強く反発する、周囲とのトラブルを繰り返すといったパターンです。最初は問題が小さくても、職位や責任が増えるにつれて徐々に目立つようになることがあります。
このような場合は、病気の有無だけを推測するのではなく、具体的にどの行動が業務上の問題となっているのかを整理し、会社のルールや期待する改善内容を本人へ伝えることが重要です。
これまでの本人から大きく変わっていないか
一方、病気を疑う手がかりになるのは、「これまでの本人から考えると不自然な変化」が生じた場合です。
たとえば、それまで遅刻や欠勤がなかった社員が急に休み始めた、正確に仕事をしていた社員のミスが増えた、周囲と協力していた社員が突然怒りっぽくなった、身だしなみや受け答えが大きく変わった、といったケースです。
これまでの仕事ぶりや人との接し方から考えて、明らかに様子が変わった場合は、メンタル不調や身体疾患、睡眠の問題、服薬の影響などが隠れている可能性があります。
人事担当者に求められるのは、病名を当てることではありません。「以前と比べて、何が、いつから、どの程度変わったのか」を確認し、産業医への相談が必要かどうかを検討することです。
「以前からか、最近変わったか」だけでは断定できない
ただし、「以前から問題があれば性格の問題」「急に変われば病気」と単純に区別できるわけではありません。
病気が徐々に進行することもあれば、職場環境、家庭事情、アルコールや薬物などの影響によって行動が変わることもあります。また、以前からみられた行動上の問題に病気が重なる場合もあります。
以前の本人との比較は、診断のためではなく、「医学的な確認が必要ではないか」と気づくための目安として使います。
医学的問題と労務問題を分けて考える
医学的な問題として確認するのは、健康状態が現在の仕事にどのような影響を与えているかです。
たとえば、不眠や強い疲労が続いている、集中力や判断力が低下している、不安や気分の落ち込みを訴えている、治療や服薬による眠気があるといった場合です。
特に、運転、機械操作、高所作業などを安全に行えるか懸念がある場合や、自傷・希死念慮を示している場合には、早急な対応が必要です。
一方、労務問題として確認するのは、欠勤時の連絡ルール、業務命令への対応、仕事の遂行状況、周囲への暴言やハラスメントなどです。
健康上の問題が疑われても、勤務上の事実確認が不要になるわけではありません。反対に、勤務上の問題があるからといって、医学的な背景がないとも限りません。
医学的問題と労務問題は同時に存在する
遅刻が増えた社員を例に考えてみましょう。
遅刻の背景に不眠や薬の副作用があれば、医学的な評価や就業上の配慮が必要です。しかし、欠勤の連絡をしない、会社からの説明に応じない、決められた手続きを守らないという点は、別途、労務上の問題として確認する必要があります。
つまり、「病気か、勤務態度か」の二者択一ではありません。
医学的な問題があればすべてを勤務上の問題として扱わないわけでも、労務上の問題があれば医学的な評価が不要になるわけでもありません。二つを分けたうえで、並行して対応することが大切です。
会社が進めたい対応手順
最初に、遅刻・欠勤の回数、発生時期、業務上のミス、周囲への影響、本人への説明内容を記録します。「やる気がない」「扱いにくい」といった評価ではなく、確認できた事実を残します。
本人との面談では、「最近、遅刻が増えています。体調や仕事のことで困っていることはありませんか」と、事実と心配を伝えます。最初から病名を尋ねたり、本人を責めたりする必要はありません。
以前の仕事ぶりから大きく変わっている場合や、健康上の懸念がある場合は、産業医面談につなぎます。本人が面談を希望しない場合でも、人事担当者から産業医へ、本人への声のかけ方や当面の勤務対応を相談できます。
同時に、連絡方法や勤務上のルールについては人事から説明し、改善が必要な点を具体的に伝えます。医学的な配慮を行うことと、職場のルールを曖昧にすることは同じではありません。
なお、健康情報は、本人の健康確保に必要な範囲で取り扱う必要があります。病歴や家庭事情を必要以上に聞き出すのではなく、産業医から会社へ伝える情報も、就業可否や必要な配慮など、仕事に必要な範囲に整理します。
産業医と社労士の役割を分ける
産業医は、症状だけでなく、通勤、集中力、対人対応、疲労からの回復、安全性などを確認し、勤務継続、受診、休職、業務上の配慮について医学的な意見を示します。
一方、注意指導、服務規律、休職規程、懲戒、休職満了などの労務上の対応は、就業規則を確認しながら、必要に応じて社労士等の専門家と検討します。
精神科専門医であり、会社員として働いた経験のある産業医であれば、本人の病状だけでなく、上司や同僚への業務負担も含め、職場で実行可能な対応を検討できます。
まとめ|レッテルではなく、以前との変化と事実を見る
社員への対応に迷ったときは、「問題社員」と評価する前に、次の二つを確認してください。
一つは、入社後の仕事ぶりや周囲への接し方と比べて、本人に大きな変化が生じているかという点です。もう一つは、現在、具体的にどのような勤務上の問題が起きているかという点です。
以前の仕事ぶりや人との接し方から大きく変わっている場合は、医学的な問題を疑い、産業医へつなぎます。同時に、勤務上のルールや業務遂行については、労務問題として客観的に対応します。
横浜・辻産業医事務所では、精神科専門医が本人の健康状態と実際の勤務状況を整理し、勤務継続、受診、休職・復職、就業配慮について助言します。必要に応じて社労士等とも連携し、産業医を選任していない50人未満の事業場からのスポット相談にも対応しています。
