メンタルヘルス不調で社員が休職することになったとき、人事担当者からよく聞かれるのが、
「休職中は会社から連絡しない方がよいのでしょうか」
という質問です。
療養中なのだから、できるだけそっとしておいた方がよいのではないか。一方で、まったく連絡を取らなければ、休職手続きや診断書の提出、復職についていつ話し始めればよいのか分かりません。
結論からいえば、休職中だからといって、会社が一切連絡をしてはいけないわけではありません。
重要なのは、連絡の「有無」ではなく、何のために、どの程度の頻度で、どのような内容を連絡するのかです。
休職が必要でも「引継ぎをしてから休んでください」でよい?
まず問題になるのが、休職に入る直前です。
会社によっては、
「担当している仕事を引き継いでから休んでください」
「取引先への説明だけ終わらせてください」
「後任が決まるまでは出社してください」
と求めることがあります。
担当者が突然いなくなれば業務に支障が出るため、会社側が引継ぎを求めたいと考えること自体は自然です。
しかし、ここで重要なのは、本人が引継ぎを行える健康状態なのかという点です。
メンタルヘルス不調では、気分の落ち込みだけでなく、集中力や判断力が低下したり、人と話すこと自体が大きな負担になったりすることがあります。
医師が「休養が必要」と判断しているにもかかわらず、通常どおり出社させ、数日間かけて詳細な引継ぎを行わせれば、療養開始が遅れたり、症状が悪化したりする可能性があります。
一方で、本人の状態が比較的安定していて、短時間で最低限の情報共有ができる場合には、必要最小限の引継ぎを行うことも考えられます。
たとえば、
- 現在進行中の案件
- 緊急性の高い業務
- 社内外の主な連絡先
- データや資料の保存場所
など、後任者が最低限必要とする情報だけを確認する方法です。
つまり、
「引継ぎが終わったら休職」ではなく、「まず健康状態を優先し、可能な範囲で最低限の引継ぎを行う」
と考えることが重要です。
本人の状態によっては、引継ぎそのものが難しい場合もあります。その場合は、上司や同僚がメール、共有フォルダ、業務管理システムなどから情報を整理し、会社側で業務を引き取る必要があります。
休職直後は「療養に専念できる状態」をつくる
休職に入った後は、基本的には治療と休養に専念してもらいます。
特に休職直後は症状が強いことも多く、会社からのメールや電話そのものを負担に感じる場合があります。
そのため、
「この仕事だけ対応してほしい」
「この資料がどこにあるか教えてほしい」
「取引先から問い合わせが来ているので回答してほしい」
といった業務連絡を繰り返すことは避けた方がよいでしょう。
休職開始後も仕事上の質問が続けば、本人は「休んでいるのに仕事から離れられない」状態になります。
一方で、
- 休職期間
- 傷病手当金などの手続き
- 診断書の提出方法
- 社内制度
- 今後の連絡方法
- 復職までのおおまかな流れ
といった、療養や休職制度の利用に必要な事務連絡まで止める必要はありません。
大切なのは、「仕事の連絡」と「休職・復職のために必要な連絡」を分けて考えることです。
休職中も定期的な連絡は必要
では、休職中はどの程度の頻度で連絡すればよいのでしょうか。
すべてのケースに共通する絶対的な頻度があるわけではありません。
厚生労働省「こころの耳」では、休業中の連絡について1~2か月に1回程度が一つの目安として示されています。
重要なのは、本人の状態を踏まえながら、連絡方法と頻度をあらかじめ決めておくことです。
たとえば休職開始時に、
「今後は人事の○○が窓口になります」
「基本的には1~2か月に1回程度、メールでご連絡します」
「体調が悪い場合はすぐに返信しなくても構いません」
などと伝えておくと、本人も見通しを持ちやすくなります。
逆に、何の取り決めもないまま人事や上司から不定期に電話がかかってくると、それ自体が心理的な負担になることがあります。
定期連絡の目的は、病状を詳しく聞き出すことではありません。
「体調はいかがですか」
「手続きで困っていることはありませんか」
「次回は○月頃にこちらから連絡します」
といった程度でも十分な場合があります。
人事が病状を詳しく聞きすぎる必要はない
休職中の社員と連絡を取っていると、
「薬は何を飲んでいますか」
「うつ病はどの程度よくなりましたか」
「主治医から何と言われていますか」
など、詳しい病状を確認したくなることがあります。
しかし、人事担当者が必ずしも詳細な医療情報まで把握する必要はありません。
会社として重要なのは、
「いつ頃まで療養が必要なのか」
「復職を検討できる段階なのか」
「働くうえで医学的な配慮が必要なのか」
といった、就業に関係する情報です。
メンタルヘルスに関する健康情報は、特に慎重に取り扱う必要があります。
病気そのものの詳細を人事担当者がすべて聞き取ろうとするのではなく、必要に応じて産業医などの医療職を介して整理した方がよい場合があります。
復職が近づいたら、徐々に「仕事」の話に切り替える
休職期間が進み、本人から、
「体調がかなり良くなってきました」
「主治医から復職してもよいと言われました」
という連絡が来たら、復職に向けた確認が必要になります。
ここではじめて、療養中心の連絡から、徐々に仕事に関する話へ切り替えていきます。
ただし、主治医から「復職可能」と判断されたことと、会社がそのまま直ちに元の仕事へ復帰させることは、必ずしも同じではありません。
精神科の治療では、症状が改善してくると、まず自宅で一定の生活リズムを保つことから始め、買い物や外出、電車での移動など、日常生活の中で徐々に負荷を高めていきます。
そして、日常生活で通常想定される程度の負荷がかかっても精神症状が安定していることを確認した段階で、主治医は「次のステップとして職場復帰を検討できる」と判断します。
つまり、主治医による「復職可能」という診断は、治療の流れの中で重要な判断です。
一方で、実際の仕事には、日常生活とは異なる負荷があります。
たとえば、長時間の集中、複数の業務を同時に処理すること、時間内に判断すること、上司や顧客との調整、責任を伴う意思決定などです。
これらは通常の日常生活だけでは十分に確認することが難しい場合があります。
そのため、主治医から復職可能との診断書が提出された後は、会社側で実際の職務内容を踏まえながら、
- 朝、決まった時間に起きられるか
- 通勤を継続できるか
- 所定労働時間勤務できる状態か
- 実際の業務で求められる集中や判断に対応できそうか
- 復職後に医学的な就業配慮が必要か
などを確認していきます。
主治医の「復職可」は、職場復帰に向けた重要な一つのステップ
メンタルヘルス不調による復職を考える際には、主治医の判断と会社側の復職判断の役割を分けて考えることが重要です。
主治医は、治療経過を継続的に確認しながら、日常生活の中で十分な負荷をかけても症状が安定しているかを評価します。
そして、その状態まで回復すれば、次の段階として職場復帰を検討できると判断します。
一方、会社側では、その社員が実際に戻る職場や仕事内容を踏まえて、
「この仕事を、この勤務条件で継続できる状態なのか」
を確認する必要があります。
これは、主治医の判断と会社側の判断のどちらが正しいという問題ではありません。
評価している負荷が異なるため、段階を分けて確認する必要があるということです。
たとえば、日常生活では問題なく外出できていても、復職後には8時間勤務、期限のある業務、複数の関係者との調整などが必要になる場合があります。
そのため、主治医による復職可能の判断を出発点として、実際の仕事内容や勤務条件を踏まえ、必要に応じて産業医が就業可能性や就業配慮について評価していく、という流れになります。
人事だけで判断が難しいときは精神科産業医へ
休職対応では、人事担当者が判断に迷う場面が少なくありません。
たとえば、
「医師から休養が必要と言われたが、どこまで引継ぎをさせてよいのか」
「休職中に本人へどこまで連絡してよいのか」
「主治医から復職可能という診断書が出たが、実際の仕事に戻すにはどのような確認が必要なのか」
「どの程度の就業配慮が医学的に必要なのか」
といったケースです。
こうした問題は、単純な人事労務上の判断だけではなく、医学的な評価が必要になることがあります。
特にメンタルヘルス不調からの復職では、主治医が確認してきた治療経過や日常生活上の回復状況を尊重したうえで、実際の職場で求められる負荷を追加して評価することが重要です。
こうした場面では、精神疾患についての医学的評価と、実際の仕事内容・勤務条件の双方を整理できる精神科産業医に相談することも選択肢の一つです。
休職中の社員への対応で大切なのは、「できるだけ連絡しないこと」でも、「細かく状況を確認すること」でもありません。
療養が必要な時期には仕事から離れられる環境をつくり、必要な連絡だけを継続し、日常生活上の回復を経て復職を検討できる段階になったら、今度は実際の仕事に耐えられるかを確認していく。
この流れを会社として整えておくことが、本人にとっても、人事担当者にとっても、安心して休職・復職を進めるための重要なポイントです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事例に対する医学的・法的判断を示すものではありません。実際の対応は、就業規則、休職制度、本人の病状、職務内容などによって異なります。
