精神科・心療内科に通院中の社員が「配置転換を要する」との診断書を提出したら?精神科産業医が会社・人事労務の対応を解説

    精神科や心療内科に通院している社員から、突然「配置転換を要する」と書かれた診断書が提出されることがあります。

    特に人事労務の専任担当者がいない中小企業では、「医師が書いているのだから、すぐに異動させなければならないのか」「本人が希望する部署がなければ、どうすればよいのか」と判断に迷うことも少なくありません。

    診断書は、会社が対応を検討するうえで重要な医学的情報です。しかし、診断書に「配置転換を要する」と書かれていることだけをもって、具体的な配置転換の内容まで決められるとは限りません。

    会社としては、診断書を無視するのでも、書かれている内容をそのまま受け入れて配置転換するのでもなく、「なぜ配置転換が必要なのか」「どのような業務であれば働くことができるのか」を確認し、必要な就業上の配慮を検討することが重要です。


    執筆・監修

    辻 勝英

    精神科専門医、産業医

    横浜・辻産業医事務所

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    目次

    架空の事例

    従業員45人の事業所で働くAさんは、数か月前から精神科に通院していました。

    ある日、人事担当者に「現在の部署での勤務継続は困難であり、配置転換を要する」と記載された主治医の診断書を提出し、「別の部署に異動させてほしい」と希望しました。

    しかし、診断書には、なぜ配置転換が必要なのか、どのような業務を避ける必要があるのかといった具体的な内容までは記載されていませんでした。

    結論:まず「主治医に確認すべき事項」を整理する

    このようなケースで会社がまず行いたいのは、診断書の記載だけで直ちに配置転換を決定することではありません。

    配置転換が必要とされた医学的な理由や、働き続けるために必要な配慮について、主治医に確認すべき事項を整理することが重要です。

    例えば、次のような点が分からなければ、会社として適切な配置を判断することは難しくなります。

    • 現在の部署の「何」が症状に影響しているのか
    • 業務量を減らせば、現在の部署でも勤務できるのか
    • 夜勤、残業、出張など、避ける必要がある勤務条件はあるのか
    • 特定の業務を避ける必要があるのか
    • 配置転換を行えば通常どおり勤務できるのか
    • 配置転換は一時的な措置なのか、長期間必要なのか

    「配置転換を要する」という記載だけでは、こうした情報が不足していることがあります。

    まずは本人や上司から話を聞き、現在の職場で何が起きているのかを確認します。そのうえで、主治医に確認すべき事項を整理して文書を作成し、本人が精神科・心療内科を受診する際に持参してもらい、必要な情報を記載した診断書を改めて作成してもらうとよいでしょう。

    その情報をもとに、会社側の業務内容や実際に可能な配置を踏まえ、どのような対応が適切なのかを検討します。

    人事労務が取り得る選択肢とメリット・リスク

    選択肢1:診断書どおり、すぐに配置転換する

    最も分かりやすい対応です。

    本人の希望に沿いやすく、現在の職場環境が症状悪化の大きな要因となっている場合には、早い段階で環境を変えることが症状の安定につながる可能性があります。

    一方で、「なぜ配置転換が必要なのか」が分からないまま異動すると、異動先でも同じ問題が起こる可能性があります。

    例えば、「対人関係のストレス」が理由だとしても、その原因が特定の上司との関係なのか、顧客対応そのものが負担なのか、多人数で働く環境が難しいのかによって、適切な対応は異なります。

    また、「診断書を提出すれば希望する部署へ異動できる」という運用になってしまうと、他の従業員との公平性や、その後の人事管理が問題になる場合もあります。

    私がこれまで経験したケースでも、配置転換の進め方によっては、他の従業員に不公平感が生じて職場の雰囲気が悪化したり、本人から求められる配慮が次第に増えていったりすることがありました。

    そのため、配置転換は診断書の記載だけで決めるのではなく、必要性や具体的な配慮の内容を確認したうえで慎重に進めることが重要だと考えます。

    選択肢2:診断書だけでは配置転換を認めない

    会社側の人員配置や業務上の事情を踏まえ、現在ある情報だけでは配置転換を行わないという選択肢です。

    安易な配置転換を防ぎ、会社の人事や組織運営とのバランスを保てるというメリットがあります。

    しかし、医学的に必要な配慮があるにもかかわらず、十分な確認をせずに診断書を事実上無視することにはリスクがあります。

    その後に症状が悪化した場合、「会社は診断書を提出されていたにもかかわらず、必要な検討をしなかった」と問題になる可能性があります。

    したがって、「診断書どおりに異動させないこと」と「診断書を無視すること」は分けて考える必要があります。

    選択肢3:追加情報を確認したうえで対応を決める

    実務上は、この方法が比較的取りやすい対応です。

    診断書を重要な医学的情報として受け止めたうえで、

    「現在の業務の何が問題なのか」

    「どのような業務であれば勤務できるのか」

    「配置転換以外の方法で対応できるのか」

    といった点を整理します。

    そして、本人の同意のもとで主治医に必要な情報を確認し、会社側の業務事情と医学的に必要な配慮をすり合わせていきます。

    なぜ「追加情報を確認してから判断する」のがベターなのか

    理由は、主治医と会社では持っている情報が異なるからです。

    主治医は、本人の症状や治療経過を把握しています。

    一方で、実際の会社にどのような部署があり、それぞれどのような仕事をしているのか、異動できる部署があるのかといった職場の事情まで詳しく把握しているとは限りません。

    反対に、会社は仕事内容や職場の状況については詳しく把握していますが、その社員の病状や、どの程度の負荷までであれば働けるのかを医学的に判断することは困難です。

    そのため、

    主治医の診断書 → そのまま人事異動

    と考えるのではなく、

    主治医から必要な医学的情報を得る → 会社が実際の職場や業務の状況を踏まえて人事上の判断をする

    という形で考えると、それぞれの役割が分かりやすくなります。

    重要なのは、最初から「異動させるか、させないか」を決めることではありません。

    まず、会社が判断するために必要な情報がそろっているかを確認することが重要です。

    こんなときは精神科産業医へのスポット相談も選択肢です

    私は産業医だけでなく、精神科医として臨床にも携わっています。そのため、主治医が患者さんの病状を安定させるために、できるだけ職場での心理的な負担を減らしたいと考えることもよく理解できます。

    一方で、主治医が実際の仕事内容や職場の体制、就業規則などを十分に把握することは簡単ではありません。

    そのため、本人から得られた情報をもとに診断書が作成され、結果として、会社の実情からすると対応が難しい配慮が求められることもあります。

    しかし、会社が主治医の診断書を十分な検討なく無視することも、その後に何か起きた場合のリスクになります。また、会社側に医学的な専門知識がなければ、診断書の内容について主治医に何を確認すればよいのか、どのように意見を伝えればよいのか分からないこともあるでしょう。

    このような場合には、精神科専門医である産業医が主治医と会社の間に入り、双方の情報を整理しながら、現実的な対応を検討することができます。

    例えば、次のようなケースでは、精神科領域に詳しい産業医へスポットで相談することも一つの方法です。

    • 診断書に「配置転換を要する」としか書かれていない
    • 本人が特定の部署への異動を強く希望している
    • 会社には本人が希望する部署がない
    • 主治医に何を確認すればよいか分からない
    • 配置転換以外にどのような配慮が考えられるか分からない
    • 休職させるべきか、勤務を継続させるべきか判断に迷う
    • 本人と会社の認識が大きく食い違っている
    • 主治医から求められている業務上の配慮を、会社として実施することが難しい

    産業医が行うのは、単純に「異動させるべき」「異動させるべきではない」と決めることではありません。

    「配置転換が必要とされた医学的な理由は何か」

    「現在の業務のどの部分が問題なのか」

    「働き続けるうえで避けるべき負荷は何か」

    「配置転換以外の配慮で対応できる可能性はあるか」

    「会社が判断するために必要な医学的情報はそろっているか」

    といった論点や不足している情報を整理することも産業医の重要な役割です。

    そのうえで、会社と本人が共通の情報・認識をもとに、現実的な対応を判断できる状態をつくることを目指します。

    最後に

    本記事で紹介した内容は、精神科・心療内科の診断書が提出された場合の一般的な考え方です。

    実際の対応は、本人の病状、診断書の内容、会社の就業規則、これまでの経緯、職場環境、配置できる業務などによって異なります。

    特にメンタルヘルスに関する配置転換では、医学的な判断と、労務上・法的な判断を分けて整理することが重要です。

    個別のケースについて判断に迷う場合には、産業医・精神科産業医に医学的な観点を、社会保険労務士に労務管理の観点を、必要に応じて弁護士に法的な観点を相談しながら対応することをおすすめします。

    この記事を書いた人

    辻 勝英
    会社員・プラントエンジニアとして勤務した経験を持ち、救急病院で精神科医として臨床に携わりつつ、現在は製造業、食品製造業、運送業、IT業、倉庫業、介護業、清掃業、警備業などの約20社の嘱託産業医として、メンタルヘルス対応や休職・復職支援に携わっている。

    資格
    ・日本専門医機構認定 精神科専門医
    ・精神保健指定医
    ・日本医師会認定産業医

    所属・外部掲載情報
    ・藤沢市民病院 精神科 医師紹介
    ・日本精神神経学会 専門医・指導医検索

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