メンタル不調で休職していた社員から、「復職可能」と書かれた主治医の診断書が提出されることがあります。
人事担当者としては、
「主治医が復職可能と判断したのだから、もう普通に働けるのではないか」
「休職前は遅刻や欠勤を繰り返していたが、本当に復職させてよいのか」
「そもそも主治医は何を確認して復職可能と判断しているのか」
と疑問に感じることもあるでしょう。
結論から言えば、主治医の「復職可能」は、実際の仕事をしても問題なく働き続けられることを確認した、という意味ではありません。
主治医は、まず日常生活の中で病状が十分に安定しているかを確認し、「仕事という次の段階の負荷に進める状態か」を判断しています。
厚生労働省も、主治医による診断は日常生活における病状の回復程度から職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復したという判断ではないとしています。
主治医は何を見ているのか
精神科や心療内科で復職を検討するとき、単に「気分が良くなったか」だけを見ているわけではありません。
まず確認するのが、規則正しい生活ができているかです。
休職直後には、朝起きられない、昼夜逆転している、食事時間が不規則になっている、といった状態がみられることがあります。
復職すれば、決められた時間に起床し、通勤し、始業時間から仕事を始めなければなりません。そのため、一定の時間に起きて日中活動し、夜に眠るという生活リズムが整っていることは重要です。
次に、日中に一定の活動ができているかを確認します。
朝起きることはできても、一日の大半を横になって過ごしている状態では、勤務を継続することは困難です。
外出する、買い物をする、家事をする、読書をするなど、日中に一定時間活動できるようになっているかを見ながら、意欲や活動性の回復を確認します。
一日を通して安定しているか
もう一つ重要なのが、一日を通して精神状態が安定しているかです。
診察室では元気そうに見えていても、「午前中は強い不安がある」「夕方になると急に調子が悪くなる」といったことがあります。
そのため、「調子は良いです」という本人の言葉だけで判断するのではなく、生活の様子や症状の変化も確認します。
例えば、**症状が強いときだけ追加で使う薬(医療では頓服薬と呼びます)**が処方されている場合、その使用状況も一つの参考になります。
不安が強く、こうした薬を頻繁に必要としているのであれば、まだ日常生活の中でも精神状態が不安定になっている可能性があります。一方、病状の改善とともに使用する回数が減っていれば、安定してきていることを示す一つの材料になります。
もちろん、薬の使用回数だけで復職の可否を判断するわけではありません。生活リズム、日中の活動性、症状の変化などを総合的に確認します。
日常生活の中で少しずつ負荷を上げていく
精神症状は改善していても、心理的な負荷が強くなると再び症状が悪化することがあります。
そのため、病状が改善してくると、状態に応じて日常生活の中で少しずつ活動量や負荷を増やしていくことがあります。
例えば、最初は近所へ買い物に行く。それが安定してできるようになったら、次は電車に乗って少し離れた場所へ出かけてみる、といった方法です。
外出時間を延ばす、人が多い場所へ行く、一定時間活動を続けるなど、日常生活の範囲で徐々に負荷を高め、それでも大きく症状が悪化しないかを確認します。
日常生活で可能な範囲の負荷をかけても状態が安定していれば、主治医は「次の段階として仕事を始めることを検討できる」と判断します。
なぜ実際に仕事ができることを確認してから「復職可能」としないのか
ここは、人事担当者には特に分かりにくい部分だと思います。
仕事には、日常生活とは異なる負荷があります。
決められた時間に出勤する、長時間集中する、上司や同僚とコミュニケーションを取る、期限までに仕事を終える、責任を持って判断する、といった負荷です。
こうした負荷を日常生活の中で完全に再現することはできません。
一方、社員が職場復帰を希望した場合、厚生労働省の手引きでも、会社が主治医による「職場復帰可能」との判断が記載された診断書の提出を求める流れが示されています。
つまり、仕事の負荷に耐えられるかを実際に確認するには仕事を始める必要がありますが、その仕事を始めるために「復職可能」という判断が必要になるわけです。
そのため主治医は、日常生活の中で可能な範囲で負荷を高め、それでも病状が安定していることを確認した段階で、仕事という次のステップに進めると判断します。
したがって、主治医の「復職可能」は、
「仕事をしても症状が再燃しないことを確認済み」という意味ではなく、「日常生活で確認できる範囲では安定しており、仕事という次の負荷に進める状態になった」という判断
と理解すると分かりやすいでしょう。
「復職可能」は「明日から元どおり働ける」という意味ではない
診断書に「復職可能」と書かれていても、
「明日から休職前と同じ業務量、同じ勤務時間で働ける」
という意味とは限りません。
厚生労働省の手引きでも、「主治医による職場復帰可能の判断」の後に、会社側が必要な情報を収集し、職場復帰の可否や具体的な復職支援プランを検討し、その後に最終的な職場復帰を決定する流れになっています。
さらに復職後も、疾患の再燃・再発の有無、勤務状況、業務遂行能力などを確認し、必要に応じて復職支援プランを見直すことが示されています。
つまり、
休職・治療
→ 生活リズムを整える
→ 日中活動を増やす
→ 日常生活の負荷を徐々に高める
→ それでも病状が安定する
→ 主治医が復職可能と判断する
→ 仕事による負荷が加わっても安定できるか確認する
→ 徐々に通常勤務へ戻していく
という流れで考えると分かりやすいでしょう。
人事担当者はどう考えればよいのか
主治医から復職可能の診断書が提出されたら、「復職可と書いてあるから、すぐ通常勤務」と考えるのではなく、次の段階として、実際の仕事内容に合わせた復職方法を考える必要があります。
例えば、
- 所定労働時間の勤務が可能か
- 安定して通勤できるか
- 残業や夜勤の制限が必要か
- 業務量の調整が必要か
- 出張や負荷の高い業務を一時的に避ける必要があるか
- いつ就業上の配慮を見直すか
などを検討します。
診断書だけでは情報が不足している場合には、本人の同意を得たうえで主治医から必要な情報を得ることも重要です。厚生労働省も、診断書だけでは不十分な場合に、産業医等が本人の同意を得て主治医から情報や意見を収集することを示しています。
まとめ
主治医が「復職可能」と判断するときには、規則正しい生活ができているか、日中に一定の活動ができるか、一日を通して精神状態が安定しているか、日常生活の中で負荷を高めても症状が大きく悪化しないかなどを確認しています。
そして、日常生活で確認できる範囲で十分に安定していれば、仕事という次の段階に進めると判断します。
したがって、主治医の「復職可能」は、**「以前と同じように働けることの証明」ではなく、「仕事という次の負荷に進める程度まで回復したという判断」**と理解すると、人事担当者にも分かりやすいでしょう。
主治医による復職可能の判断をスタート地点として、会社側では実際の仕事内容や職場環境を踏まえ、仕事による負荷が加わっても安定した勤務を続けられるかを確認していくことが重要です。
※本記事は、一般的な精神科診療および職場復帰支援について解説したものです。実際の復職可否や必要な就業上の配慮は、本人の病状、仕事内容、職場環境、就業規則等を踏まえて個別に検討する必要があります。
参考資料
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
よくある質問(FAQ)
Q1. 主治医は何を見て「復職可能」と判断するのですか?
主治医は、規則正しい生活ができているか、日中に一定の活動ができているか、一日を通して精神状態が安定しているかなどを確認して復職を検討します。
また、日常生活の中で徐々に活動量や心理的な負荷を高めても、症状が大きく悪化しないかも重要な判断材料になります。
症状が強いときだけ追加で使う薬の使用状況なども参考にしながら、生活リズム、活動性、症状の変化を総合的に評価します。
Q2. 「復職可能」の診断書があれば、すぐに通常勤務へ戻してよいですか?
「復職可能」は、休職前と同じ勤務時間や業務量ですぐに働けるという意味ではありません。
主治医は、日常生活で確認できる範囲では病状が安定し、仕事という次の段階の負荷に進める状態になったと判断して、復職可能の診断書を出します。
復職後は、実際の仕事による負荷が加わっても状態を維持できるかを確認していく必要があります。そのため、必要に応じて残業や業務量などを調整しながら復職することがあります。
Q3. なぜ主治医は「実際に仕事ができるか」を確認してから復職可能と判断しないのですか?
実際の仕事による負荷は、休職中の日常生活だけでは完全に再現できないからです。
主治医は、病状が改善してくると、近所への外出や買い物から始め、状態に応じて電車を利用して外出するなど、日常生活の中で徐々に活動量や負荷を増やしていくことがあります。
それでも状態が安定していれば、次の段階として仕事への復帰を検討します。
一方、実際の仕事には、締切、責任、長時間の集中、上司や同僚とのコミュニケーションなど、日常生活では再現しにくい負荷があります。
そのため、日常生活で確認できる範囲では十分に安定した段階で「復職可能」と判断し、仕事による負荷への反応は復職後に確認していくことになります。
Q4. 主治医が「復職可能」と判断しても、会社側で改めて復職について検討する必要がありますか?
はい。主治医の「復職可能」と、会社が行う職場復帰の判断は役割が異なります。
主治医は病状の回復を中心に評価しますが、会社側では、実際の仕事内容、勤務時間、通勤、職場環境なども踏まえて復職方法を検討する必要があります。
例えば、所定労働時間の勤務が可能か、残業を制限する必要があるか、業務量を調整する必要があるかなどを確認します。
産業医がいる場合には、主治医から得られた医学的な情報と実際の仕事内容を踏まえて、就業可能性や必要な配慮について評価してもらうことができます。
Q5. 復職後に会社が確認すべきことは何ですか?
復職後は、仕事による心理的な負荷が加わっても精神状態が安定しているか、継続して勤務できているかを確認することが重要です。
例えば、遅刻や欠勤が増えていないか、勤務後に極端に疲弊していないか、業務を継続できているか、精神症状が再び悪化していないかなどを確認します。
必要に応じて就業上の配慮を見直しながら、徐々に通常勤務へ戻していくことが大切です。
