会社員経験のある産業医と、人事労務に精通したスタッフがいる事務所に相談するメリットは、医学的な意見を聞くだけでなく、会社として何を確認し、どう対応するかまで整理しやすいことです。
具体的には、次の3点があります。
① 医学的な問題と労務上の問題を分け、会社が判断する事項を明確にできる
② 仕事内容や現場の負担を踏まえ、実施可能な配慮を検討できる
③ 人事担当者が対応を抱え込まず、必要な専門家と役割を分担して進められる
私自身、産業医業務を行う中で、医学的な問題と労務上の問題が混在し、人事担当者が対応に困っている場面を経験してきました。そのような場合、受診を勧めたり、診断書を確認したりするだけでは、対応が進まないことがあります。
今回は、会社員経験と人事労務への理解が、どのように役立つかを説明します。
① 医学と労務を整理し、会社が判断する事項を明確にできる
メンタルヘルスの相談では、健康状態、仕事上の問題、本人の希望が、一つの話として出てくることがあります。
例えば、「遅刻が続いている」「特定の業務を担当すると体調を崩す」といった相談です。人事担当者からすると、どこまで医師の意見を確認し、どこから会社として判断すれば良いか、迷う場面かと思います。
この場合、まず病気が勤務にどう影響しているのか、医学的に必要な配慮は何かを確認します。そのうえで、勤務ルールや配置、社内手続きなど、会社が判断する事項を整理します。
治療につなぐだけでは解決しない問題があります
社員を医療機関につなぐことが中心となり、会社が困っている内容への対応が進まなくなる場合があります。
健康上の問題が疑われる場合、受診を勧めることは必要です。ただ、受診後も遅刻や欠勤が続いていれば、会社として勤務状況を確認し、対応を検討する必要があります。治療中という理由で勤務上の課題について話し合えなくなると、人事担当者も対応に困ります。
産業医も、医療につなぐことだけを優先すると、同じ状況をつくってしまう可能性があると思います。治療の必要性と併せて、会社に残る課題を整理することが重要です。
本人の異動希望と、医学的な必要性を分けます
例えば、「部署を変更すれば復職可能」という診断書が提出された場合でも、当事務所では、まず元の部署での復職を基本として検討することを勧めています。
部署変更によって負担が減る可能性はありますが、新しい仕事や人間関係への適応が必要になる場合もあります。また、「異動すれば働ける」という本人の希望と、実際に勤務できる程度まで回復しているかは、分けて確認する必要があります。
そのため、産業医は異動を前提に話を進めるのではなく、元の部署で担当する仕事を踏まえ、健康状態や必要な配慮を評価します。診断書の内容が不明確であれば、本人の同意を得て、主治医に判断の理由を確認します。
ただ、元の部署に健康を損なう具体的な要因がある場合は、その改善や配置の検討が必要です。元の部署への復職を基本としながら、個別の事情も確認します。
産業医は医学的な必要性を整理し、会社はその意見を踏まえて復職や配置を判断します。この役割分担により、本人の希望と、会社として必要な対応を分けて検討できます。
② 仕事内容や現場の負担を踏まえ、実施可能な配慮を検討できる
会社員として働いた経験があると、業務量を減らす際の調整や、上司と部下の関係、周囲の社員への負担を具体的に考えやすいと思います。
例えば、「業務を軽減する」という助言でも、少人数の部署では、減らした仕事を誰かが引き受ける必要があります。本人の負担が減っても、別の社員に仕事が集中すれば、対応を続けることが難しくなります。
そのため、医学的に必要な配慮を示すとともに、どの仕事を減らすのか、担当を変更できるのか、別の方法で負担を減らせるのかを会社と検討することが大切です。
また、人事労務に精通したスタッフがいることで、勤務時間の変更や業務調整に伴い、確認すべき社内制度や手続きを整理しやすくなります。
配慮は、目的と見直しの時期まで考えます
復職直後に短時間勤務や業務量の調整を行うことはあります。ただ、目的や見直しの時期が曖昧なままでは、本人も会社も、次に何を目指せば良いか分からなくなります。
配慮については、下記を確認しておくと良いかと思います。
・どのような健康上の理由で必要なのか
・どの業務を、どの程度調整するのか
・いつ、何を確認して見直すのか
・勤務が安定しない場合に、誰へ相談するのか
必要性の確認がないまま特別な対応が続くと、病気であることによって得られる状況が、通常勤務への移行を難しくする可能性もあります。疾病利得という言葉で説明されることがありますが、配慮を求める社員を一律にそのように評価するものではありません。
症状が残っているために配慮が必要な場合もありますので、本人の姿勢だけの問題とせず、健康状態と勤務状況を確認することが先になります。会社の事情も踏まえ、必要な配慮と見直しの条件を具体化することが重要です。
③ 人事担当者が抱え込まず、専門家と役割を分担できる
メンタルヘルス対応では、人事担当者が本人、上司、医療機関の間に入り、調整を一人で抱えてしまう場合があります。それぞれの意見を聞いても、誰が何を判断するかが決まっていなければ、次の対応には進めません。
産業医には、医学的な評価と助言に加えて、問題を整理するコーディネーターとしての役割があります。私も相談を受けた際には、医学的に確認する事項と、人事労務上の判断が必要な事項の交通整理をすることがあります。
役割分担としては、下記になります。
・健康状態や就業上の配慮は、産業医が医学的に評価する
・業務の割り振りや社内での対応は、会社が検討する
・就業規則や休職制度の運用は、必要に応じて社労士へ相談する
・紛争や法的な判断が必要な事項は、弁護士へ相談する
コーディネーターというのは、産業医がすべてを決めるという意味ではありません。医学的な評価を行ったうえで、必要な情報を整理し、それぞれの担当者が判断できるようにすることです。
人事労務への理解があることで、人事担当者が何に困り、どのような判断を求められているかも捉えやすくなります。相談先だけでなく、何を確認してもらう必要があるかまで整理することで、専門家同士の連携も進めやすくなると思います。
メンタルヘルス対応の進め方に迷う場合は、ご相談ください
「受診を勧めたものの、勤務上の問題が続いている」「復職の診断書が出たが、何を確認すれば良いか分からない」「配慮を続けているが、見直しが進まない」といった場合は、医学と労務の両面から整理することが必要かと思います。
横浜・辻産業医事務所では、会社員経験のある精神科専門医と、人事労務に精通したスタッフが連携し、健康状態の評価と、会社として検討する事項を整理致します。必要に応じて、顧問社労士や弁護士との役割分担も確認しながら対応を進めます。
お問い合わせの際は、現在困っていること、これまでの対応、産業医の選任状況を、分かる範囲でお知らせください。医学と労務のどちらの問題か、事前に切り分けて頂く必要はありません。
相談内容を確認し、当事務所で対応できる範囲と進め方をご案内致します。
